2017年2月22日水曜日

国際救助隊出動す!・・・ん?

4回目のエントリー「レイアウト設計でawkのお世話になった話」の話の頃、ちょうど1992年から93年頃の、青森県五所川原市勤務の時代に遭遇した、量産立ち上げトラブルの「救助活動」のことを書こうと思います。

ASIC/ロジック系製品の設計拠点立ち上げを目的として、1992年の秋頃から、筆者を含めて3名が青森県五所川原市の田んぼの真ん中に立っていた事業所に転勤し、拠点立ち上げの準備として色々な設計環境整備とか、東京から飛んでくる指示に従って色んな作業をしたりしていました。

そんなある朝、東京から「青森から羽田経由で函館へ行け!今すぐに」という指示が筆者に飛んできて、急遽飛行機を手配して出張に出かけたのでした。

一体何が起こったのか?


指示の詳細な内容は、函館にある後工程の生産拠点で、私の後輩が担当した製品の組立後の選別(以下、単に「選別」と記します)の立ち上げでトラブルが出ていて、着工まで持って行けないから、手伝いに行け、というものでした。その際、設計で使っている選別用のボード(パフォーマンスボードといいます)がリファレンス用に必要だろうから羽田でボードを受け取ってから函館へ行け、とのこと。

つまり、東京と函館の間に入って、とにかくなんとか量産着工まで持って行ってくれ、という指示だったんですね。どういうトラブルがどの程度起こっているのか、テストの状況の詳細を知らされることもなく、国際救助隊は函館へと出動したのでした。

なお、函館にある生産拠点とは、ロジック系の製品の後工程/選別の主力工場で、関連会社の函館工場です。そしてトラブルが出ている製品とは、筆者が五所川原に異動する前に担当していたCPU内蔵ASICの製品グループの製品です。

たしか、製品はとあるメーカーのデジタルカセットテープレコーダーに使うLSIだったと記憶しています。奇しくも筆者のイニシャルと同じNTっていう名前の規格でしたよ。

着工できるまで帰さない言われ・・・


話を戻すと、機内サービスができないほど大きく揺れた飛行機で函館空港に到着、そこからタクシーで工場に移動、工場のテスト担当者にお会いして工場内を一通り案内して頂いたあと、担当者の上司にご挨拶。流れるまで帰さないからね、と言われ、暗い気分になったものです。でも、自分の製品ではないにしても、設計部代表で量産工場に赴いていく以上、意地でもものが流れるようにして帰らなきゃいけないでしょう。

状況を把握してびっくり

量産のボードにびっくり


その後テスターの前で実際に様子を見せて頂いたのですが、テストの状況よりも何よりも、一番びっくりしたのは、パフォーマンスボードからデバイスを挿入するソケットまでの配線の異様なまでの長さでした。

量産の選別工程では、組立、バーンインが終わった製品が工程内用のLSIトレーに納めてあります。これをLSIテスターにかけるために、オートハンドラーという機械を使います。

オートハンドラーというのは、トレー内のLSIを真空吸着で拾い上げて、LSIソケットに乗せて、LSIをソケットに押しつけてテストをし、テストが終わったら良品は良品トレーに、不良品は不良品トレーに納める、という機械です。

この当時、この工場のオートハンドラーを使うためには、パフォーマンスボードからソケットまでの配線をかなり長くする必要がありました。40〜50センチはあったんじゃないでしょうか。もちろんシールドケーブルですけどね。

これだけの長さの配線だと、いくらシールドケーブルを使っているとは言え、ノイズ、クロストークなど、様々な阻害要因でデバイスの特性は本来の特性よりも悪く見えてしまうだろうと思います。

スペックの切り方の甘さにびっくり


東京から持っていった設計部で持っているパフォーマンスボードでテストすれば、いくらなんでも普通にパスするだろうと思って測定値を見てびっくり。こんなレベルでよく量産移管したな、というほどスペックに全くマージンがなく、着工できるレベルではありませんでした。

おそらく東京サイドでは、パフォーマンスボード間の相関データをとって、スペックに下駄を履かせれば解決、ぐらいの認識だったのではないかと思うのですが、そんなレベルじゃありません。

この工場では、選別歩留まりを90パーセント台後半で管理していて、それよりも歩留まりが下がると、工程異常としてラインを止めます。しかし、今回の製品では、設計から持っていったボードを使っても、管理値を割ってしまうほどの不安定さでした。

製品の詳細な仕様はそもそも知らないので、スペックがどうあるべきだったかもわからないのですが、測定値を見た限りスペックの切り方に対する検討が不十分だったのではないでしょうか。これはどう見てもスペックを変更しないと着工できない状況で、特性認定試験のデータの見方が甘いとしか思えませんでした。

つまりまとめると、

  • 製造設備を考慮に入れて、テストスペックはそれなりにマージンを取るべきだがやってない
  • テストスペックの切り方がそもそもNGで、今のスペックではどうにもならない

その日はそういう状況であることをこの目に見せられて落胆しつつ、出張先から晩ご飯をごちそうして頂き、宿泊となりました。

なんとかスペック変更


明けて次の日、テストスペックの変更をして、量産着工に持って行きたいわけですが、当時の会社の決まりとしてテストスペックを変更するためには、

  • 設計部門から変更仕様書を発行
  • 製造部門から合議をもらう
  • 品質保証部門から合議をもらう
  • 関係部署に配布する
  • 後日、テスト図面を図面庫から引き出して原図訂正をする

という手続きが必要となります。

変更仕様書の合議が揃えば、着工は可能です。なお、量産着工前であれば、誤記訂正扱いということで品質保証部門の合議は不要ですが、すでに量産のウエハテスト工程を通って来ている製品なので、品質保証部門の合議は必須です。

この品質保証部門の合議というのが難物で、社外保証スペックよりも甘いスペックになっていないことは当然、スペック変更の合理的な根拠を求められます。お客様と直結する問題なので当然ですね。

この製品では、元々デバイスの実力にマージンがなくて、結構無理なスペック設定がなされていたように記憶しています。本来ならデバイスの測定値とお客様に提示している目標仕様の関係はどうか、そして目標仕様を満足できるスペックを切ることが出来るのかどうか、特性認定試験でしっかりと吟味されていなければいけなかったのでしょうが、それがなされていなかったということでしょう。

着工できた


函館に着いた日の午後、状況を見せて頂いてスペック変更が必要、という報告をして、東京側の抵抗に遭いながらも、今の状態だとどうにもならないという話をして、東京側で変更仕様書の必要な合議を全て頂いて着工できたのは、次の日の夕方だったと思います。ここで救助完了です。

おそらく、スペックの変更の合議はかなり難航したと思うんですよね。品質保証部門も、社外保証値を変えた上でテストスペックを変えるのなら、すぐに納得してくれると思いますが、この製品の場合は社外スペックは変えずにテストスペックを変えましたから。

これは社内で持っている社外保証値に対するマージンを削ることを意味するわけです。ヘタすると、社外保証値よりも甘いスペックになりかねないわけで、品質保証部門はかなり慎重になったと思います。

この件で思ったこと


この一件でつくづく思ったのは、設計部が評価に使っているパフォーマンスボードでギリギリ通るスペック設定をしても、量産工程ではまず上手くはいかない、ということでした。設計部門でテスト業務に携わる人は、一度は量産現場で使われている設備やボード類、現場の雰囲気を見るべきだと思います。

しかし、疑問に思うこともあります。量産に渡すテストプログラムは、当時の組織割だと、生産技術部に渡して、そこでテスト図面とのスペックの突き合わせを行って、評価用サンプルを使った流し込みを経てから実際に量産に投入されるので、あまりに酷い状況だと生産技術部のチェックで何かトラブルが出て作業が止まるはずなんです。それがこの製品ではなぜ量産拠点まで行ってからトラブルが出たのかがわかりません。

しかし、自分の製品ではないのと、当時の筆者には、五所川原での業務のほうが重要だったので、量産の選別工程が流れ始めた時点でよしとしました。

やっと帰れる


量産着工できた日の夜は、函館駅からほど近いところに宿を取ってもらい、宿泊しました。その当時は酒を飲む習慣もなかったし、美味しいものを食べられる場所を探すのも面倒で、ホテルのそばの小さな中華料理屋で適当に夕食を済ませたあと、宿でテレビを見て普通に過ごしました。当時はインターネットなんかなかったから、楽しい場所を探すのも手間がかかったのです。それに、くたびれてましたからね。

次の日、駅の周りを散策し、青函連絡船記念館摩周丸を見物した後、函館駅で駅弁を買って、快速海峡に乗り込んで青森へ移動。途中車内で駅弁を食べようと思ったらなんと箸が入ってなくて食べられず、悲しい思いをしながら青森駅到着、奥羽本線、五能線を乗り継いで五所川原に帰着したのでした。

弁当が食べられずに悲しい思いはしましたが、着工できた達成感を感じて晴れ晴れとした気分でした。

そう言えば、「弁当に箸が入っていなくて、持ち帰って家で食べるのは衛生上好ましくなかったので車内で捨てざるを得ませんでした」、と言う旨のお手紙をお弁当業者に送ったら、おわびのお手紙がお弁当代金とお菓子と一緒に送られて来ました。それ以来、そのお弁当業者さんのファンです。みかどさんという、一番の老舗の駅弁屋さんです。

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